2020年8月16日、音楽朗読劇『黑世界〜リリーの永遠記憶探訪記録、或いは、終わりなき繭期にまつわる寥々たる考察について〜』の主題歌、「La Vie en Noir」のデモバージョンが公開されました。
今回はその感想・考察を書いていきたいと思います。
なお本記事にはTRUMPシリーズに関するネタバレや用語が含まれていますのでご注意ください。
※用語についての解説は行いません。
『黑世界』主題歌「La Vie en Noir」に関する感想・考察
歌詞
公式に歌詞が発表されたため削除しました。
『黑世界』パンフレットか、niconicoの末満さんのチャンネルを参照してください。
重く苦しい旅路
過去の主題歌と比較すると、とても重苦しい楽曲となっています。
TRUMPシリーズにおいて主題歌はオープニング(キャストパレード)に用いられます。
登場人物紹介を兼ねており、歌にダンスに、時には殺陣も……と非常に華やかな演出となっています。
しかし「La Vie en Noir」はそういった派手さは感じられません。
きっとそれこそが『黑世界』の雰囲気なのだと考えています。
『黑世界』はあくまで朗読劇ですから、恐らく派手な殺陣などはないと思います。
リリーの旅路で出会った人々との話がつづられていく中で、たんたんと深い絶望に飲み込まれていく。
そんな雰囲気を感じ取ることができました。
『LILIUM』から『黑世界』へ
序盤の歌詞はまさしく『LILIUM』の内容そのものです。
擬似クランで暮らす少年少女たちは、ファルス(ソフィ)の血でできた薬によって、不老の身体にされています。
ファルスのための花園の出来上がりです。
しかしクラン創設から1000年近く経ったある日、突如花園に終止符が打たれます。
真実を知ったリリーのイニシアチブによって花=少年少女たちの命が散ったのです。
花園の崩壊に絶望したファルスは再び長い旅に出ます。
ファルスが去った後、一人の少女が起き上がりました。
それがリリーです。
ファルスの呪いに勝った!と思いきや、自分だけが不老不死になってしまっていたのです。
死ぬことのできない絶望。
仲間たちを死なせてしまった絶望。
親友を失った絶望。
沢山の絶望が、森に降り続く雨のようにリリーに降り注ぎます。
『LILIUM』のストーリーはここまで。
そして『黑世界』へ。
リリーはファルスを求め、死を求め、長い旅へと出かけます。
『黑世界』はその旅路で出会った人々との物語です。
星という言葉の意味
「TRUMPシリーズ」において重要なキーワードである「星」。
シリーズにおいて星は「手に入れることのできないもの」の象徴として扱われています。
登場人物たちは何かを求める時に星に手を伸ばします。
「La Vie en Noir」の歌詞においては「雨に洗われ溶けた」「名残を残して去った」とされています。
リリーにとっての星とは何でしょうか。
それはスノウと死であると考えます。
「雨に洗われて溶けた」星はスノウ。
溶けて消えてしまった星はもう手に入れることができません。
かつて親友だったスノウも、あの日絶命してしまい再び会うことはできないでしょう。
「名残を残して去った」星はファルス。
名残というのは「ファルスは死ぬことができない」という確かな情報と、不老不死となった自分自身。
「去った」だけなのでいつか出会える日が来るかもしれません。
だけどそれがいつになるのかは誰にもわかりません。
「Eli,Eli,Lema Sabachthani?」
『LILIUM』の主題歌である「Eli,Eli,Lema Sabachthani?」とも関連性があります。
実は何度か「Eli,Eli,Lema Sabachthani?」は誰に向けた歌詞なのか?と考えたことがあるのですが、いまいち納得のいく結論が得られないままでした。
しかし今回の「La Vie en Noir」によって少し見えたような気がしました。
「Eli,Eli,Lema Sabachthani?」とは『聖書』のマタイの福音書27章にある言葉で、「主よ、主よ、なぜ私をお見捨てになったのですか?」という意味になります。
この言葉は今思うと、「自分だけ死ぬことができなかった」ことに対するリリーの心の叫びのように聞こえます。
同じように800年以上にわたって血の薬を飲み続け、ファルスと同化していったスノウ。
それなのに不死になったのはリリーだけ。
劇中に「どうして私だけが」というセリフがありますが、まさにその通りだと思います。
条件は殆ど同じ、むしろスノウの方が先に同化がしていたはずなのにこの結果。
もはや神を恨むしかありません。
「Eli,Eli,Lema Sabachthani?」の歌詞は『SPECTER』で原初信仰者たちの祈りの言葉としても用いられます。
彼らにとっての「主」はTRUMPです。
このことから歌詞はリリーとファルスの視点なのではないでしょうか。
歌詞の内容に戻ります。
「北十字星/南十字星を夢想せば」が「北十字星/南十字星を夢想することはできない」に変化した点は、リリーの心情の変化だと考えます。
かつて見ていた夢も今はもう見ることができない。
だって「夢の中で夢を見てはいけない」*1んだもの。
永遠の繭期は夢の世界。だからリリーは夢が見られない。
メロディのこと
余談ですが「北十字星/南十字星を夢想」の部分がエリエリ~のメロディと同じなのがすごく良い……(リズムは多少違う)。
「せば」は力強いけど、「することはできない」には諦め感情が入っているようなメロディに聴こえます。
和田さんすごい……!
TRUMPシリーズの楽曲で、他作品のメロディを引用しているのは他にもありますよね。
例えばNU版『TRUMP』の「輪廻夜想」のメロディの一部は『COCOON 星ひとつ』の「輪廻葬送」に使われているし、『LILIUM』の「あなたを愛した記憶」のメロディの一部は『マリーゴールド』の「花には言葉がある」に使われています。
関連する作品の音楽が密に関わっているのも、TRUMPシリーズの魅力のひとつだと言えます。
『黑世界』メインビジュアルに関する考察
最後に少しだけメインビジュアルについても触れておきたいと思います。
花言葉は「呪い」
『LILIUM』におけるリリーは真っ白な衣装に身を包んでいます。
白百合の花言葉は「純潔」。
作中のリリーはあまりにも無垢でした。
疑似クランにおいて生は呪い、死こそが絶対的な救済と考えたのでしょうか。
他の生徒たちの意思に関係なく全員死ぬように仕向けます。
永遠の繭期を望む紫蘭や竜胆までも、です。
これはリリーの純粋さゆえに起きた結末だと考えています。
一方『黑世界』ではその衣装が真っ黒に染まっています。
黒百合の花言葉は「呪い」。
散っていった友人たちの呪い。
自分を不老不死にしたファルスへの呪い。
沢山の呪いがリリーにまとわりつきます。
MIEさんとYAEさんの演じる役のビジュアルは紫蘭と竜胆を彷彿とさせます。
紫蘭と竜胆といえば『マリーゴールド』でソフィの幻影として現れました。
今回ももしかしたらリリーの元に幻影となって現れ、呪いの言葉を吐いていくのかもしれません。
だって二人は永遠の繭期を望んでいたのだもの。
加齢の兆候?
鞘師自身が成長しているので当然ではあるのですが、リリーがすごく大人っぽくなったように感じました。
リリーの不老不死はファルスの血の薬によるもの。
もしかしたら長い年月を経てその薬の効果が徐々に薄まっているのかも……なんて考えてしまいます。
『グランギニョル』では繭期の少年アンリが666人のイニシアチブを受けることで、不老不死の身体となりました。
しかしこれは完全ではなく、わずかながら加齢の兆候がみられたといいます。
TRUMPのイニシアチブ以外で完全な不老不死を作り出すことは難しいのでしょう。
もしかしたらこれはファルスも同様なのかもしれません。
血の薬によって疑似的に不老不死を作り出すことができても、それは完全ではない。
だからリリーもゆっくりだけど成長しているのかも……。
『LILIUM』の楽曲「少女純潔」の振り付けの最後は、ファルスとリリーの行く末を暗示しているそうです。
ということはいつかリリーに死が訪れる可能性は十分にありますよね。
(まあ『黑世界』でそうなることはありませんが……。)
まとめ
メインビジュアルと主題歌が公開されたことで、いよいよ実感がわいてきましたね!
本当はさらっと感想を書くだけにする予定だったのですが、ついヒートアップしてあれもこれも書いてしましました。
たった3分少々の歌と写真だけでこんなに色々想像できてしまう末満さんパワー……恐ろしい……。
記事では歌詞の内容に特化していましたが、もちろん和田さんの音楽と新良エツ子さんの歌も相変わらず最高。
今回はデモバージョンだから、本番はまた変わるんだろうなあ。
他のキャストも歌うのかな?
ちなみに私は最終的に日和2回、雨下1回参戦することが決まりました。
配信についてはいつにするか考え中です。
全部見たいけどそれはさすがに厳しいので、各2公演くらいずつくらいにしておくかなあ。
開幕まで約1ヶ月!楽しみで仕方ありません!
*1:『LILIUM』劇中歌「永遠の繭期の終わり」より