9/26配信の『黑世界』「雨下の章」「日和の章」を鑑賞しました。
両方鑑賞した結果改めて実感したことがあります。
ついにリリーの物語が始まった!と。
本記事では『黑世界』本編のストーリーに関して深くは触れませんが、本編の内容に言及している部分が多数あります。
ネタバレ防止のため、未鑑賞の方はご注意ください。
『黑世界』はリリーの物語
『黒世界』はリリーの物語?
リリーが主人公なんだから当然じゃないか。
今更なにを言っているんだ。
そうお思う方もいらっしゃるかもしれません。
だけど改めてそう言いたいだけの理由がありました。
以下説明していきます。
『LILIUM』後の世界
今回「雨下」→「日和」という鑑賞順だったからというのも大きいですが、開幕から数分後には『LILIUM』を初めて観たときの辛さを嫌でも思い出すことになります。
同時に『LILIUM』後の世界であることを痛感させられるのです。
『LILIUM』後に何があったか?
どんな人たちと出会ったのか?
それが各章6話ずつ描かれています。
悲劇的なイメージの強いTRUMPシリーズですが、100年200年と旅をしていたら、そりゃ悪いことばかりではないよね。
そんな当たり前のことを思い出させてもくれました。
ときに悲しく、ときに温かい物語が展開されていき、そのたびに『LILIUM』の頃と変わらないリリーの強さや優しさを垣間見ることができます。
他作品との関連が薄い
TRUMPシリーズは後発の作品になるほど他作品との関連性が濃くなってきます。
例えば『COCOON』の場合『TRUMP』『グランギニョル』『SPECTER』は最低限押えておきたい作品です。
時系列的に『LILIUM』に最も近い『マリーゴールド』も「ダリ・デリコ」や「繭期少年少女失踪事件」といったワードが入っています。
そのため『TRUMP』『LILIUM』『グランギニョル』あたりは観ておきたいところです。
「予備知識がなくても観られるけど、知っておいた方が楽しい。」
これは新作上演のたびによく目にする言葉です。
だけど『TRUMP』『LILIUM』『SPECTER』『グランギニョル』『マリーゴールド』『COCOON 月の翳り』『COCOON 星ひとつ』の7作品に加え、短編小説も多数ある現在において、新規ファンにとっての「予備知識」のハードルが年々高くなっているのは事実でしょう。
しかし『黑世界』は近年の作品と比べて必要な予備知識がかなり少ないのです。
最低限『LILIUM』さえ観ていれば、殆どの内容を把握できてしまうレベルです。
そもそも末満さん以外の作家さんの作品に過去作は殆ど関係ありません。
また末満さんの作品についても100年後、200年後の世界で出会った人々との関わりが中心ですので、過去作品と関係する要素はアクセサリー程度です。
そのため物語の軸はあくまで「『LILIUM』後にリリーの周りで起きた出来事」でした。
必要な知識としては『LILIUM』本編と、せいぜい「ヴラド機関」「ヴァンパイアハンター」くらいでしょうか。
『LILIUM』との関連性の高い『TRUMP』『マリーゴールド』『二輪咲き』についても、それらに関する要素が殆ど登場しないため、鑑賞の必要性がないと言えます。
『LILIUM』にを鑑賞したことのない方向けに紹介記事を書いていますので、よろしければそちらもご参考願います。
リリーの物語のはじまり
前述の通り、『黑世界』では『LILIUM』で知り得る話以上のことは殆ど描かれていません。
それは『黑世界』がリリーの物語だからだと考えています。
リリーにとってのソフィは「自分や友達を不幸にした憎むべき相手」であり、「自分の死の手掛かりとなる人物」でしかありません。
ソフィにはウルという親友がいたとか、クラウスに不老不死にさせられたとか、そんなことはリリーにとって全く関係のないことです。
リリーにとって重要なのは
- ソフィは不老不死である
- ソフィの血の薬(ウル)のせいで不老不死になった
- 死ぬためにはソフィを探さなければならない
たったのこれだけです。
これはソフィもまた同じです。
ソフィの場合自分の過去にクラウスが関わっているので少々事情は違いますが、それでも彼にとって重要なことは
- クラウスは不老不死である
- クラウスのイニシアチブのせいで不老不死になった
- 死ぬためにはクラウスを探さなければならない
ということだけなのです。
それ以外の情報と言うのはあくまでソフィに対する肉付けです(その肉付けの量が多いですし、1000年近くの間脱線もしていますが笑)。
物語の軸となる人物によって必要な情報は違います。
関係のない要素を無理やり盛り込むと、観てる側としても無理やり感を感じてしまいますよね。
だからこそ『黑世界』においてはリリーと直接関係ない話題は必要ないのです。
リリーの場合主に関わっている作品は『LILIUM』だけ。*1
まだ肉付けできる要素が限りなく少ないです。
情報量の多さがTRUMPシリーズの魅力の一つである一方で、この情報の少なさこそリリーの物語であるという実感につながります。
もう一つ、リリーの物語が始まったと実感できる重要な要素があります。
それは『TRUMP』と『黑世界』でソフィとリリーが全く同じ行動を取っているという点です。
『TRUMP』のラスト。
ソフィは少女に向かってクラウスは死なないことや、自分が死ぬためにはクラウスに死を願ってもらう必要があることを話します。
そして星に手を伸ばしてこう言うのです。
「この両の手が死に届くその日まで。」
『黑世界 日和の章』のラスト。
リリーはチェリーに向かってソフィは死なないことや、自分が死ぬためにはソフィに死を願ってもらう必要があることを話します。
そして星に手を伸ばしてこう言うのです。
「この両の手が死に届くその日まで。」
ほら、全く一緒。
『TRUMP』はソフィの始まりの物語。
そのラストと「日和の章」のラストが全く同じ。
きっと『黑世界』からリリーの物語が始まるよ!という意味に違いありません。
今まで殆ど出番がなかったリリー。
3人目の不死者なのに扱い悪くない?なんて思っていたリリー。
そんな彼女の物語がついに始まりました。
余談
本編とはあまり関係がないけどちょっと思ったことを書いていきます。
リリーにとってのTRUMP=ソフィ
以前どこかで末満さんが「疑似クランの少女たちにとって、TRUMPはファルス(=ソフィ)だけでいい」といった旨を話していたと記憶しています。
ソフィ自身は『LILIUM』において「あなたがTRUMP?」という問いかけに否定も肯定もしていません。
よって疑似クランの少女たちはソフィ=TRUMPであると認識したことでしょう。
リリーも例外ではないはず。
つまりリリーにとって自分に不死を与えたソフィこそがTRUMPで、ソフィに作られた自分がファルスなのです。
これによりスノウの「私たちはファルスなの」というセリフの解釈も変わってきます。
それまでの文脈から「ファルスの血の薬を飲み続けて同化してしまったから」と受け取るのが素直な解釈です。
TRUMPの世界において、「TRUE OF VAMP=TRUMP」から生み出された不死者を「FALSE OF TRUMP=ファルス」と呼びます。
つまりソフィがTRUMPであるという疑似クランの世界においては、ソフィによって生まれた不死者がファルスであると考えられます。
だから「私たちはファルスなの」というセリフには、そういった意味も含まれているように聞こえてきました(あくまで後付けですが)。
女の子って強い
初演版『SPECTER』の上演当時にあまりにヘビーな内容でメンタルがやられている劇団Patchの面々に対し、末満さんが「『LILIUM』に出演したハロプロの子たちはケロッとしていた」と語ったというエピソードがあります。
雨下の6話にて、狂ってしまった方が楽だが、ソフィのようになりたくないといった旨が語られます。
このときなんとなく上記のエピソードが頭をよぎりました。
狂ってしまった方が楽なのに、辛くても正気を保ったまま生きることを選んだリリー。
狂ったように人の変わってしまったソフィ。
変わらないことを選んだのはリリーの強さゆえなんだろうなあ……。
リリーももっと時間が経ったらどうなるかわかりませんが、凛と美しいまま咲き誇っていて欲しいです。
まとめ
『黑世界』によってTRUMPシリーズは新章に突入したように感じます。
今までは『TRUMP』あたりのお話がメイン。
そのため先ほども書きましたが、「リリーって重要な役なはずなのに放置されすぎじゃない?」なんて思ったりもしました。
が、ここからはいよいよリリーのターン!(多分)
26日の配信でちらっと「『キルバーン』は『LILIUM』後、『黑世界』前」みたいなことを話していたと思います(うろ覚え)。
多分『キルバーン』は雨下に出てきた例のあれの話なんだろうな……。
きっとこれからしばらくはリリーが中心の物語になるのでしょう。
そのうち戯曲集『リリートリロジー』も出るのかなあ。わくわく。
まだ配信でしか味わえていないから、早く生であの空気感を味わいたい……。
大阪公演が無事敢行されますように!!!!!
大阪千秋楽が終わったら作品に関しての感想も書いていけたらと思います。
*1:『二輪咲き』にも登場しますが、リリーはどちらかというと脇役的な扱いのためここでは除いています。